NPO法人松本クラフト推進協会

【特集】クラフト作家のご紹介Featured craftsmen

2016.04.04 木工・漆

五十嵐裕貴さん

活動拠点長野県南佐久郡
五十嵐裕貴さん 五十嵐裕貴さん

南佐久郡南牧村の工房にて作品制作をしている五十嵐さんにお話を伺いました。

―ご自身の作品を作るきっかけは何だったのでしょうか。

高校卒業後はしばらく会社員をやっていたのですが、この生活は自分に向いてないな、続けられないなという思いがありました。それで埼玉の木工所で働きながら、仕事とは別に自分の作品作りを始めたんです。でもそのころは仕事に時間を取られて、とても自分の作品作りに時間が割けない状況でした。生活コストも高く、自分のやっていることではそれがまかなえなかったんです。

―その後長野県に来られたんですね。

そうですね。友人の工房を借りることができて、以前よりはお金の心配をしなくてよくなった。最近作るような大きい作品、始めから誰が買うか分からないようなものには尚更、埼玉にいたらとても踏み出せなかったと思います。「売れないけど自分が本当に作りたいもの」に挑戦できているのは、今の環境のおかげです。

―今のような作風になったのは最近なのですか。

以前は、もっと実用的なものづくりっていうのを目指していました。でも周りを見れば上手に作れる人がいっぱいいる中、どうも僕には向いていなかったようでお金にならなかったんです。自分の立ち位置や作品の意味について考え悩んだ時期もあったのですが、どっちにしろお金にならないならもっと自分の作りたいものをって考えていったら、実用性にこだわる必要がなくなったんです。

―なるほど。五十嵐さんの作品は比較的大きなものが多いですよね。どんなふうに使うのかなと気になっていたんです。

いつも用途はそこまでよく考えていないんだけど、考え方としてはカゴのような存在でいてほしいなと。お皿みたいに食べ物を入れるという限定はなくて、何でも好きなものを入れていい“容れ物”というイメージ。

―用途が前提にあるわけではないということですね。

僕の今のところのテーマは「塊に要素を与える」というものなんです。木の塊に、一つの用途に特化した要素ではなく、いろんなものに使えるちょっとした要素を与えようという。それは使いやすいとはいえないかもしれないけど、ものって実用性だけじゃないと思っていて。「使いにくいんだけどこれが使いたい」って思ってもらえるようなものづくりをしたいなと思いますね。

―普段木はどのように選んでいるのですか。

材木屋さんへ行って、その時の木の塊の感じが良いものを選んできます。樹種は特定しないです。木であればいい。木は成形の過程も乾燥して縮むんですけれど、縮んだらまた形を整えるというのはあまり、僕のやりたいことではないなと思っています。こんなふうに木が縮むという「木そのものの性格」みたいなものを出したいと思っているので、まずは塊としていいと思ったものを選んでいます。

―実用性に優れていなくても生活に馴染んでいくものって身近にありますよね。そういうものとそうでないもの、どんな違いがあると思いますか。

それは使い手次第なので、作り手としては僕の作ったものが次の日に捨てられてしまってもそれはしょうがないことなんです。僕のすることは、もし気に入ってくれたのであればその気持ちを裏切らない仕事をすることです。孫の代まででも使えるようなものを作りたい。「使いたい」っていう気持ちにはもちろん応えたいと思っています。

 

私たちの身の回りにはいろいろなものが溢れていますが、木工作品がそもそもなぜ木でできているのかと考える機会はあまりありません。五十嵐さんの作品は「使い勝手の良さ」にとらわれない分、それが木であることの必然性が感じられる作品なのかもしれません。利便性や実用性から開放された立場からものづくりを考えることに、形作られたモノと木そのものの界線を探るような面白さを感じました。

 

Profile

五十嵐裕貴

活動拠点長野県南佐久郡
1984年千葉県生まれ。千葉にて住宅電気工事関係の企業、岐阜・埼玉の木工所での就業を経て独立。現在は、長野県南佐久郡の工房で作品制作をしている。