猪狩史幸さん
Q:1年通して漆に携わる猪狩さんですが、昔の職人さんは漆掻きシーズンが終わると出稼ぎに行かれていた方が多いようですね。
もともと漆掻きをするために二戸に来たけれど漆がとれるのは6~10月くらいまでで、漆掻きだけでご飯を食べるのはかなり難しい。
でもせっかくこの地域に来たので、例えば冬はコンビニで働いたり、全く別の地域で漆と関係ない仕事をするよりも、冬場も器作りをしながら一年間漆で生活しようと思いました。
そして困ったことに、コンビニで働く方が儲かってしまうんですね(笑)そのギャップに苦しんで「俺はいったいここに何しに来てるんだ」って分からなくなりそうだったから。
Q:岩手での仕事を通じて感じることは?
漆掻きは昔からその土地にある文化なので、地元の人は身近すぎて、その価値に気付いていない人が多いのかなと思います。「なんとなくあるなぁ」という感じで。
それを僕みたいな外から来た人間が見るととても魅力的で、おもしろいことをしてるなと思ったりする。そういう外からもたらされる新たな価値観によって、逆に中にいる人がその価値に気付いて、そこにいろいろな付加価値をつける。そんなふうに切磋琢磨していければいいなと思います。
Q:サラリーマンを経てから漆掻きという職業を選んだことについての思いをお聞かせください。
僕一応大学出たんですけど、学生時代も浮き雲みたいな人間で4年間バイトして終わったみたいな、何が残ったのかわからない、よくいる普通の大学生でした。就職もしたけれど、どこか自分に合わないなという思いがあって。
昔からひとりだけ違うことして迷惑かけちゃったりするような人間だったので、ネクタイ巻いて、部下が付いて・・・そういう社会ではどうもうまくやっていけそうにないなという感覚がありました。
でも、漆を見つけて、まがりなりにも今回こうやってインダビュー受けられるような機会を得ているというのは、やっぱり漆が僕と社会をつなげてくれたんじゃないかなという気はすごくしています。
なんの映画か忘れてしまったけど「みんなが“ライオン”になれるわけじゃない」という言葉があって。違うものがいるからこそそれは“ライオン”として認められる。
でも、おれは犬でいい、おれは猫でいいって人だったら、すばらしい犬になれるし猫にもなれるんですよね。自分がそうなってるとは言い切れないけど、少なくとも自分のやりたいことをやって、自分の中にある正解に近づいているとは思う。そのときそのときで答えは変化するし、質問自体が変わると答えも必然的に変わってしまうけれど、それでも道は自分で切り拓いていくしかないんですよね。
漆をやろうかな、と思い始めた20代のときと比べると、今は「正解はひとつじゃない」ということをより強く感じています。ひとつ歯車がカチっと合うようなちょっとしたことでも人生は変わっていくので、おもしろいなーなんて思いますね。
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猪狩史幸
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